本会は、心臓ペースメーカーによって生命を救われたことを認識し、感謝、報恩、奉仕(ボランティア)の精神に基づいて、会員の適切な健康管理並びに健全快適な日常生活の確保を図り、もって社会福祉の向上に貢献することを目的とする

Q&A ②




Q.( 女性 ) 5年前に小坂井先生にペースメーカーを入れなさいと言われてまだ入れていません(場内笑)。去年の4月に会社の検診で「不整脈が出ている」と言われて、国立循環器病センターで見てもらい、「もしかしたら、上室性不整脈かもしれない」と11月にアブレーションをしました。アブレーションの結果「130から140までの上室性頻拍が出るが20分ぐらいで止まっていく。しかし、そのまま心臓が止まっている時間が8秒ぐらいなので、ペースメーカーを入れよう」と言われたんですが、未だに入れたくないのです。私はやっぱりペースメーカーを入れている人に偏見を持ってしまいます。ペースメーカーに対して正しい知識が無く、携帯電話や色んな磁気のこともそうです。1回「ペースメーカーを入れて元気になったよ」というお話も聞いてみたいなと思い、携帯電話や磁気の話もお聞きしたくて来ました。もし、入れて直ぐに抜きたいと言ったら全部抜いて貰えるのか、リードも全部取ってと言ったら取って貰えるのかそちらの方もお伺いしたいんです。でも、私の持っている心臓が入れてもどうしようもなければこのまま入れなくても良いし、その辺を小坂井先生にお聞きしたいんです。よろしくお願いします。

A.外来でペースメーカーを止めて大体7秒ぐらい心臓が止まっていると皆さん気を失われます。8秒というのが見つかったのなら入れた方がいいと思います。それはアメリカとか日本の学会で定めている基準に達しています。しかし全く症状が無い、今まで1回も失神発作も無いという事であれば、入れなくてもおかしくない。患者さんをクラス1、クラス2、クラス3という分け方をしていて貴女の場合クラス2のAだと思います。2のAは多くの医師が入れた方がいいと言う場合です。ペースメーカーを取り出せるかどうかというのは取り出すというのは大変なので、代わりにペースメーカーはOFFにして機能をストップする事が出来ます。取り出す事も出来ますが入院してやらないといけませんので、多分やらないと思います。携帯電話は7、8年前から殆どのぺースメーカーが影響を受けないような機能が付いていますから安心して下さい。全く症状が無いという人は確かに入れるか入れないかという事は問題なんです。洞機能不全症候群の人は入れる前に症状の無い人が多いんです。昔、心室ぺーシングしか出来なかった頃は、ペースメーカーを入れた直後から動悸という症状が出たんです。でも、ペースメーカーを入れて喜んで帰った人がいないというのは、2、30年前の話です。心房にリードが入れられるようになってから、そういう症状が殆ど無くなって、以前の症状も無くなって退院されています。だから、8秒もあったら私は入れた方が良いと思いますね。車の運転でも心臓が8秒も止まっていたら一瞬意識が無くなったまま走っている可能性があります。 (顧問医師B)

Q.車の運転はしていませんが、歩いていて、たまにそういう時があります(場内驚きの声がひろがる)。

A.一番恐いのは床がコンクリートのような所で倒れる事で、全く予兆無しに倒れますから、そのまま頭を打って脳出血を起こして脳の手術をした人がいる位です。入院中でこれからペースメーカーを入れようかという人で起こった人も何人かおられます。また、自殺するつもりの無い人がプラットホームでフッと電車へ飛び込んだというのも中にはそういう人がいるかも分かりません。8秒も止まっているのであれば、長生きしたければ入れた方がいいと思います。 (顧問医師B)

Q.私の心臓で長生きといっても知れているから、もういいかなと思うんですけど、まだ生きられるでしょうか?

A.お幾つか分からないんですが…。 (顧問医師C)

Q.41歳です。

A.これから先、お年を召す程脳の虚血症状というのは強く出ます。若い時ほど出にくいんです。同じ秒数の間心臓が止まっても年がいっている方がこたえます。そういう点ではこれから先もっと深刻になって来ると思います。逆に、20年ぐらい前から不整脈があったのに全然気が付かなかったという事が有り得るんです。若い人ほど脳の血管が柔軟で割に上手く血液が流れていて何とか済んでいるんです。段々年を取ってくると、老化の現象で動脈硬化が進むんです。ですから、今ある状態がこのまま何年も行くとは思えない。段々深刻化して行く可能性があるという事が一つ。それから、ペースメーカーを入れてあまり元気になった人を見た事が無いようにおっしゃっていたんですが、この会場で、「まあ元気になりました」という方、一寸手を上げてみて下さい。(顧問医師C)

Q.沢山いてはるわ。

A.はい、有り難うございました。こんなに沢山おられるので私は大きい声で言えます。手を上げておられない方は、若干、先程小坂井先生が言われたように、動悸が感じられたり少し困った事があるかも分かりませんが…。先程も言いましたように、深刻な症状を経験してペースメーカーを入れて貰った人は皆喜んでいます。僕達がコンコンと一生懸命説明して、「そんなら入れて貰おうか」という人は、入れた後やっぱり何か心の底に残るんです。ひどい症状のあと入れてすっきりした人は、何か症状があっても、「死ぬ事を思ったらこんな事ぐらいは…」と思われるんです。これがペースメーカーを有り難いと思うか、何か悪いように思われるかの分かれ目です。それから、「私の心臓はどうせ長持ちしないだろう」と言うのは大きな間違いでペースメーカーを入れたら長持ちする。ペースメーカーを入れなければ脳の症状か心臓の方がくたびれてくるかどちらかで長持ちしないんです。この中で昭和40年代で入れられた方がおられます。その方は30代だったと思いますが、主婦でペースメーカーを入れてからママさん卓球の選手になられて、 大東市 の代表になって試合に出たりしておられます。このようにペースメーカーを入れてから元気になった方が絶対おられます。そういう風な一生を送って頂きたいと私は思うんです。こういう風にいわれて「しょうが無いから入れてみようか」という方はもう一寸症状が深刻になってから、受けた方が有り難味が良く分かる。(顧問医師C)

Q.もう少し我慢してみます。有り難うございました。

A.ただ、どこまで我慢したらいいかというのは医者の側としては保証出来ない。安全宣言というのは医者として凄く難しいんです。たとえばこの心電図なら大丈夫だという安全宣言は難しい。だから、相談を受けた私達は悪い方を先に考えて一寸でも危険から遠ざかって欲しいと思います。本人さんがどうしても入れるのが嫌だとおっしゃっている場合、アメリカでは、後で不幸なことがおこった時、以前にペースメーカーを入れなさいと強く言わなかった医者が訴えられたりするんです。それで、断わられた場合は、貴女は貴女の意思でペースメーカーを拒否したという事を一筆書かせる。アメリカはそうしています。癌で手術を勧めたのに「私は癌で死にます。いいです」と言う人があったら、その人にはそういう風にサインして貰う。そういう風にしないとあの時もっと厳しくすすめるべきであったという批判があとから出たときに、医者は立つ瀬が無いんです。日本ではそこまで行っていませんが、医者は言うべき事を言って、ご本人が自分の道を選択されたんだという事を明確にする必要があるんです。で、選択能力の無い人はこちらの言う事に一生懸命耳を傾けて頂いたらいいし、自分は自分で選択するんだという強い意志をお持ちの方はそこまでサインをして自分の道を選ぶような覚悟でいて頂きたいと思います。で、私達の気持ちを言いますと貴女があの時あんなに断ったから二度とペースメーカーを入れて上げないという事はありません。貴女の気が変わったら何処の病院でも「アッ、変わられたんですか。待ってました」と言う風な形でペースメーカーを入れて(場内笑)両方が安心する。そういう時期が来ると思いますね。(顧問医師C)

Q.はい、分かりました。有り難うございました。

A.一言、内科の方からも言わせて頂きます。別に僕は貴女に「早く入れなさい」と言うのではありませんが、僕は多くの患者さんを診て900例を超えるようになりました。フラフラすると言いながら2年間僕の所に通っていて、来る度に心電図をとるとその時には何も出ないという患者さんがおられて、ある日、「フラフラしている」と待合で言うのでその場でモニターを付けて見ていたら、スーッと4 . 8秒止まり、患者さんは待合でひっくり返っている訳です。他の患者さんが「どうしたどうした」と言っていましたが、その間、4 . 8秒で完全に意識を失っていました。今はペースメーカーが入っております。ですから、7秒とか8秒と聞きますと「よくそんな勇気が有るな」と思います。それから、これは他のドクターと僕との関係の話ですが、しょっちゅう僕の所に患者さんを送って下さる熱心なドクターが」おられるんです。もうお年も85ぐらいなんですが、ある時、患者さんの心電図を持って、「どうしたらいいだろう」と言って来られ、見れば3秒ぐらいしょっちゅう止まっているし、患者さんもフラフラしながら来ている訳です。「これは絶対必要だと思いますよ」と返事をしたら、「そうですか」と言われ、患者さんには「もしもの時はペースメーカーを入れないといけないから」と言っておられました。私は「これがもしもの時じゃないですか」と言いました。小坂井先生が数年前に言っておられたんだったら先見の明があったんだからそれを信用なさる方がよろしいんじゃないでしょうか。(顧問医師A)

(司会) はい、どうも有り難うございました。今、私こちらで聞いていまして、5人の先生始めこの会に出席している全部の人が一日も早く貴女に手術して貰いたいと思っておりますので、どうぞ(会場大きな拍手)。それで、来年のこの会に是非元気な顔で出て来て下さい。よろしくお願いします。とても簡単です。私6回も手術していますので、また詳しい事をお教えします。有り難うございました(会場拍手)。

関西支部第勉強会での質疑応答を武内先生にご監修いただき、全国の皆様のご参考に掲載いたします。(編集部)

ご回答の先生方(敬称略・順不同)

座長 (故)武内敦郎   大阪医科大学名誉教授

    小坂井 嘉夫    千里中央病院副院長

    西川  昌樹    六地蔵病院 西川医院院長

    西本  泰久    大阪医科大学 生体管理再建医学・救急医学准教授

    神谷  匡昭    松下記念病院循環器部長